転職を考え始めたとき、「何を基準に次の勤務先を選べばいいのか」と迷う医師は少なくありません。
年収、当直の回数、症例を積める環境、専門医資格の維持、勤務地、施設のタイプ。重視したい条件はいくつもあり、そのすべてを高い水準で満たす求人はそう多くないからです。
だからこそ欠かせないのが、転職で何を優先するかという「軸」を先に固める作業です。
軸が定まらないまま求人を探し始めると、目先の好条件に引っ張られ、本当に解決したかった悩みを残したまま入職してしまいかねません。
本記事では、医師が転職先を選ぶときの判断軸と、優先順位をつける具体的な手順、キャリア段階ごとの軸の違いまでを順に解説します。
<本記事のまとめ>
- 医師の転職の軸は「年収」「働き方」「専門性」「専門医資格」「勤務地」「施設タイプ」の6つに整理できる
- すべてを満たす求人は少なく、条件はMUST(譲れない)とWANT(できれば)に切り分ける
- 相場を踏まえて現実的な優先順位に調整すると、交渉が進みやすく失敗も防ぎやすい
- 重視すべき軸はキャリア段階で変わり、若手は症例数、中堅は両立、ベテランは負担軽減が中心
医師の転職の軸となる6つの主要条件

医師が転職先を選ぶときの軸は、年収、働き方、専門性、専門医資格、勤務地、施設タイプの6つに整理できます。
ただし、これらすべてを高い水準で満たす求人はそう多くありません。だからこそ、自分がどの軸を重視するのかを意識しながら各条件を読み解くことが大切です。
ここでは、6つの軸それぞれで何を確認すべきかを順に見ていきましょう。
1. 年収・収入
年収の水準は、勤務先の種別や診療科によって大きく変わります。
厚生労働省の第25回医療経済実態調査(令和7年実施)でも、開設者の種別(国公立・医療法人など)によって、病院に勤務する常勤医師の給与水準には差があることが示されています。
美容外科などの自由診療系は高年収になりやすい一方、一般的な臨床から離れるトレードオフを伴う点には注意が必要です。
また、年収は当直の回数や手術件数など、働き方そのものによっても変動します。提示された額面だけでなく、その金額がどんな勤務を前提にしているかまで確認しておきましょう。
参考:第25回医療経済実態調査の報告(令和7年実施)(厚生労働省)
2. 働き方・労働環境
当直やオンコールの回数、外来のコマ数、残業や休日出勤の頻度は、生活の質を大きく左右します。
医師の労働時間は長くなりやすく、厚生労働省の令和4年調査「医師の勤務実態について」でも、病院常勤勤務医の長時間労働は診療科による差が大きく、脳神経外科では9.9%、外科では7.1%が年1,860時間換算を超える時間外・休日労働の水準にあったと報告されています。
ミスマッチが起きやすいのもこの軸です。「当直なし」と聞いていたのに、入職後に当直を担うことになるケースも起こり得ます。
求人票の表記をうのみにせず、実際の勤務がどうなっているかを具体的に確認しておくことが欠かせません。
参考:医師の勤務実態について(厚生労働省・医師の働き方改革の推進に関する検討会 資料)
3. 専門性・スキルアップ
スキルを伸ばしたい医師は、症例数や手術件数、指導体制を軸に勤務先を見極めます。
業務が固定化していたり、手術件数自体が少なかったりする職場では、思うようにスキルアップが進まないことがあります。
注意したいのは、求人票の手術件数が古い情報のままだったり、執刀が部長など特定の医師に限られていたりするケースです。
「その病院に症例があるか」と「自分が症例を積めるか」は別の問題です。面接や見学の際に、自分が担当できる範囲まで踏み込んで確認しておきましょう。
4. 専門医資格の取得・維持
専門医資格は、取得と更新で確認すべき点が異なります。
これから取得を目指す場合は、認定施設での研修や所定の症例経験が必要になるため、転職先が認定施設に該当するか、指導医が在籍するかを確認しておきましょう。
すでに保有している資格の更新では、必要な単位数や診療実績の要件が領域ごとに定められています。転職先でその要件を満たせるかを、各学会の更新基準に沿って確かめておくと安心です。
なお、これから専門医取得を目指す段階では、通常の転職とは選考や入職の流れが異なる場合もあります。資格取得の計画と転職のタイミングは、あわせて考えておきましょう。
5. 勤務地・通勤・転居
勤務地は、日々の通勤負担だけでなく、家族の生活基盤にも直結します。
医局人事のもとでは、地方への転勤を断りにくいケースも少なくありません。勤務地を自分でコントロールしたいなら、その点も含めて働き方を考えておく必要があります。
全国に施設を展開する法人では、入職後に異動が発生する可能性もあります。生活基盤を一か所に固定したい医師は、異動の少ない勤務先を軸に選ぶとよいでしょう。
6. 施設タイプ
施設のタイプによって、働き方も、求められる医師像も変わります。
この点について、エムステージエージェントが全国の常勤担当コンサルタントに行った調査では、施設タイプごとの傾向が次のように述べられています。
【急性期病院】専門医・指導医・特殊な専門医(がん治療認定医など)を保有している医師を希望するケースが多い。当直・オンコールは必須。
【回復期病院】ジェネラルかつ専門性を持っている医師を希望するケースが多い(循環器内科専門医だが、一般内科なども対応できる医師など)。当直も可能なら尚良いが、必須ではない。
【慢性期病院】総合的に診て頂ける医師を希望されるケースが多い。当直無し勤務も可能。
ただしどの施設も、人柄・コミュニケーション力が高い先生を希望されています。(大阪支社/常勤コンサルタント)
引用:【調査】スキルより重視されるのは?医療機関が「欲しがる医師」「敬遠する医師」の特徴(エムステージエージェント)
このほか、診療所、自由診療、健診、産業医など、医療機関以外も含めて働き方の選択肢はさまざまです。自分の軸に合う施設タイプを選ぶことが、ミスマッチの回避につながります。
医師の転職の軸の決め方|優先順位のつけ方4ステップ

軸となる条件が見えてきたら、次はそれらに優先順位をつけていきます。
すべての条件を100点満点で満たす転職は、現実にはほとんどありません。だからこそ、何を優先し、何を妥協できるのかを先に整理しておくことが失敗の回避につながります。
ここでは、優先順位を決める手順を以下の4ステップで解説します。
1. 長期のキャリアプランから逆算する
2. 条件をMUSTとWANTに分ける
3. 相場を把握して現実的な優先順位にする
4. 家族の意向と第三者の視点を取り入れる
1. 長期のキャリアプランから逆算する
当面の転職目的を考える前に、まず「どんな医師になりたいか」「どう働いていきたいか」という長期のビジョンを描いてみましょう。
たとえば将来の開業を考えているなら、そこで必要になる症例経験や経営の知識から逆算して、今選ぶべき勤務先が見えてきます。
長期のビジョンがまだ描けない場合は、「今の自分にできること」からスキルを棚卸しするところから始めても構いません。現状を整理するだけでも、次に重視すべき軸が見えやすくなります。
2. 条件をMUSTとWANTに分ける
軸となる条件は、「MUST(譲れない条件)」と「WANT(できれば叶えたい条件)」の2つに分けて整理します。
100点満点の転職は難しいからこそ、満点ではなく80点を狙う発想が現実的です。MUSTを確実に満たし、WANTは状況に応じて妥協する、という線引きをしておきましょう。
求人を探し始める前に、妥協できる点とできない点を決めておくことが大切です。エムステージエージェントに登録する会員医師352名へのアンケートでは、転職経験のある回答者の約45%が転職後に「失敗した」と感じた経験があると回答しました。その失敗の多くは、事前の確認やリサーチで防げた項目だったとされています。
とくに「もしまた転職するなら事前に確認しておきたいこと」を尋ねた質問では、次の3点が上位に並びました。
Q:もしまた転職するとしたら、入職前に確認しておきたいことは何ですか?

出典:医師が転職で後悔したことについてのアンケート(Dr.転職なび・エムステージエージェント/2022年10月・n=352)
第1位は実際の仕事内容(72.5%)、第2位は実際の給与額・手当額(56.3%)、第3位は募集背景や前任者の退職理由・離職率(41.3%)でした。いずれも、入職してから「聞いていた話と違う」となりやすい項目です。MUSTを決めるときは、この3点を自分の優先順位に当てはめて考えると整理が進みます。
途中で軸がぶれないよう、まずはMUSTから先に固めるのがコツです。
3. 相場を把握して現実的な優先順位にする
希望する条件が相場から大きくかけ離れていると、交渉は難航しやすくなります。
そのため、年収や勤務条件の相場を知ったうえで、優先順位を現実的に調整することが欠かせません。
この点は、医療機関側の視点からも裏づけられています。エムステージエージェントのコンサルタント調査では、「転職が決まりにくい」と感じる医師の特徴として「希望条件と相場のギャップを理解してくれない」ことが突出して多く挙げられました。
Q:「転職が決まりにくい」と感じるのは、どのような医師ですか?(常勤コンサルタント調査)

出典:医療機関が「欲しがる医師」「敬遠する医師」の特徴(Dr.転職なび・エムステージエージェント 常勤コンサルタント調査/2023年2月)
希望を無理に抑え込む必要はありません。ただ、相場という現実をいったん受け止めたうえで優先順位を組み直すと、納得感のある転職につながりやすくなります。
4. 家族の意向と第三者の視点を取り入れる
通勤、勤務体系、転居といった要素は、家族の生活にも影響します。優先順位を決める前に、家族の意向を確認しておきましょう。
また、転職の動機には自分でも気づいていない部分があるものです。一人で抱え込まず、エージェントや転職経験のある同僚など、第三者に話して客観視することをおすすめします。
実際、エムステージエージェントのアンケートでは、88.6%の医師が「転職での失敗を防ぐためにエージェントの活用は有用」と回答しました。有用な点としては「希望条件や優先順位の整理」「条件の確認・交渉の代行」が上位に挙がっています。
Q:転職での「失敗」を防ぐために、転職エージェントを利用することは有用だと思いますか?

出典:医師が転職で後悔したことについてのアンケート(Dr.転職なび・エムステージエージェント/2022年10月・n=352)
考えを言葉にして人に話すこと自体が、軸を整理する助けになります。軸の整理に迷ったら、優先順位の整理を得意とするエージェントの活用も選択肢です。気になる方は、気軽に相談してみてください。
キャリア段階別|医師の転職の軸の違い

重視すべき軸は、キャリアの段階によって変わります。
若手のうちに最優先だった条件が、中堅やベテランになると後ろに下がることは珍しくありません。
ここでは、3つのキャリア段階ごとに、軸の置き方の違いを整理します。
1. 専攻医・若手(〜30代前半):症例数・専門医取得を最優先に
2. 中堅(30代後半〜40代):年収・役割・ワークライフバランスの両立
3. ベテラン(50代〜):勤務負担の軽減とセカンドキャリア
1. 専攻医・若手(〜30代前半):症例数・専門医取得を最優先に
若手の時期は、専門医の取得と臨床スキルの土台づくりが中心です。
そのため優先したい軸は、症例数を積めるか、指導体制が整っているか、認定施設に該当するか、という3点です。
この段階では、年収の高さよりも「経験を積めるか」を基準に勤務先を選ぶほうが、その後のキャリアの幅を広げやすくなります。
2. 中堅(30代後半〜40代):年収・役割・ワークライフバランスの両立
中堅期は、結婚や育児といったライフイベントと重なりやすい時期です。
そのため、年収、職場での役割、働き方のバランスをどう両立させるかが軸です。
中堅の医師は経験と実績が評価されやすく、複数の条件を同時に相談できる余地が生まれやすい時期でもあります。MUSTとWANTを整理したうえで、譲れない条件を中心に交渉を進めるとよいでしょう。
3. ベテラン(50代〜):勤務負担の軽減とセカンドキャリア
ベテラン期は、体力面や定年を見据えた選択が必要です。
勤務負担の軽減や、療養型・健診・産業医・非常勤といったセカンドキャリアの選び方が軸です。
「何歳まで、どう働くか」というゴールを先に描いておくと、勤務先選びの方向が定まりやすくなります。
転職の軸が定まらない・ぶれてしまうときの対処法

軸を決めようとしても、なかなか定まらない、考えるうちにぶれてしまう、ということはよくあります。
そんなときは、まず「一番解決したいこと」に立ち返り、MUSTを1つに絞り直してみましょう。あれもこれもと並べず、最優先の1点を決めるだけでも、軸は安定します。
その勤務先で働く自分を想像し、1〜3年後に希望どおりの姿になれているかを思い描いてみるのもよいでしょう。
それでも整理がつかないときは、一人で抱え込まないことが大切です。前述のとおり、希望条件や優先順位の整理はエージェントが得意とする領域です。第三者の視点を借りれば、軸を一緒に組み立て直せます。
医師の転職の軸に関するよくある質問

転職の軸について、医師からよく寄せられる質問にお答えします。
軸が複数あって優先順位がつけられないときは?
まずは「一番解決したいこと」を1つ決め、それをMUSTに据えてください。
残りの条件はWANTとして、妥協の余地を持たせておきます。1点を軸に固めると、ほかの条件も整理しやすくなります。
それでも迷うときは、相場や自分の市場価値を踏まえながら、エージェントと一緒に整理するのが現実的です。
面接で「転職の軸」を聞かれたらどう答える?
前向きな表現で、簡潔に答えるのが基本です。
そのうえで、応募先の特徴と結びつけて伝えると説得力が増します。現職への批判は避け、「何を実現したいか」を中心に話しましょう。
年収だけを軸として挙げると敬遠されやすい点には注意が必要です。診療方針への共感や、自分が貢献できる点とあわせて伝えると、印象を損ねずに済みます。
【まとめ】医師の転職は「軸」と優先順位の整理から|条件整理に迷ったらエムステージエージェントへ
医師の転職の軸は、年収、働き方、専門性、専門医資格の維持、勤務地、施設タイプの6つに整理できます。すべてを満たそうとせず、条件をMUSTとWANTに切り分け、相場を踏まえて優先順位をつけることが、転職の失敗を防ぐ起点です。
そして、重視すべき軸はキャリアの段階によって変わります。若手は症例数や専門医取得、中堅は年収・役割・両立、ベテランは負担軽減とセカンドキャリアと、今の自分にとっての最優先を見極めることが大切です。
条件の整理や相場の確認に迷ったときは、医療経営士の資格を持つコンサルタントが在籍するエムステージエージェントにご相談ください。希望条件と優先順位の整理から、医療機関との条件交渉まで、無料でサポートします。