医師が退職を検討する際、「いつ・誰に・何を伝えれば良いか」「どのような書類が必要なのか」と迷うことも多いです。退職の手続きは、転職活動のタイミングや引継ぎ、退局手続きと密接に絡み合っており、流れを把握しておけばスムーズに進められます。
この記事では、退職を決めた時点からやるべきことを、順を追って解説します。
医師が退職を決めたらまず確認すること
退職の意思が固まったら、まず就業規則と退職の伝え方を確認しましょう。手続きの流れは、医局所属かどうかによっても変わります。
就業規則の退職規定
勤務先の就業規則に、退職希望日の何カ月前までに申し出る必要があるかが定められています。一般的には1カ月~3カ月前とされているケースが多く、クリニックの常勤医の場合は遅くとも3カ月前を目安に動き始めるのが望ましいとされています。まずは手元の就業規則を確認し、退職希望日から逆算してスケジュールを立てましょう。
ただし、大学医局からの転職などでは退職交渉や承諾を得た後の引継ぎに長く時間がかかる傾向があるため、できれば退職する半年~1年前までには意向を伝えるのが望ましいとされています。後任への引継ぎ期間を十分に確保するためにも、早めの確認と行動が大切です。
退職の意思は「誰に・どの順番」で伝えるか
職の意思を伝える相手と順番は、医局所属かどうかで異なります。医局人事によって関連病院等に赴任(勤務)している場合は、まず医局長に相談し、その後医局から勤務先の医療機関に打診されるのが一般的な流れです。医局に所属していない場合は、直属の上司または人事担当者に直接伝えます。
いずれの場合も、同僚より先に上司へ伝えることが基本です。退職の話が意図せず広まると、職場での関係に影響することもあるため、伝える順番には注意しましょう。
また、強力な引き留めにあった場合でも、周囲の声に流されず、自分の意思が固まっている状態で臨むことが、ストレスなくスムーズに退局するためのポイントです。
在職中に進める転職活動
退職が決まったら、できるだけ在職中に次の勤務先を決めておくことが望ましいです。エムステージが実施したアンケート調査によると、転職活動を行った医師の約9割が「前職の在職中に行った」と回答しています。
また、転職先決定までにかかった期間は「3カ月以内」が41.9%、「3カ月~6カ月以内」が28.1%となっており、約7割の医師が半年以内で活動を終えています。
収入の空白期間を避けるためにも、退職の3カ月~6カ月前を目安に転職活動を始めるのがおすすめです。常勤への転職を検討している場合は特に、求人探しから面談・条件交渉まで一定の時間がかかるため、早めに動き出すことが大切です。
一方で納得できる勤務先が見つかるまでじっくりと転職活動をするという選択肢もあります。実際に、アンケートでは15.3%の医師が転職先を決めるまで1年以上かかったと回答しました。勤務先が決まるまでの間、スポット勤務や定期非常勤を活用して収入を確保するという方法もあります。
退職前に必要な引継ぎや書類の準備
退職日が決まったら、引継ぎと書類の準備を並行して進めます。退職直前に慌てないよう、早めに着手しましょう。
担当患者・業務の引継ぎ
担当患者のサマリー作成や後任医師への申し送りは、退職日から逆算してスケジュールを立て、余裕を持って進めることが大切です。
エムステージが実施した「業務や患者様の引継ぎに関するエピソード」の調査によると、実に約6割(60.9%)の医師が、前任者からの引継ぎに「不満を感じた経験がある」と回答しています。その理由として最も多く挙げられたのが「経過や処方理由など、カルテ記載が不十分だった」(147件)という点です。
現場で引継ぎを受けた医師からは、次のような切実な生の声が寄せられています。
▼実際の声
- 「自分のスタイルで診断を下していた前任者。なぜその診断に至ったのか全く理解不明。」(30代・勤務医(診療所・クリニック)
- 「前任者が患者様に退職を全く伝えておらず、前任者のファンのような方から担当初日に激怒されたことがあります。」(30代・勤務医・一般病院)
こうしたトラブルを防ぎ、後任へスムーズにバトンを渡すためには何が必要なのでしょうか。
同調査で「円滑な引継ぎのために異動や退職をする方に期待すること」を尋ねたところ、「カルテは、客観的に誰が見ても理解できる内容で記載する」が約7割(66.5%)でトップになりました。次いで「正確に漏れなく記載する」が過半数(54.0%)、「異動や退職に関する患者様への説明をしっかり行う」が4割強(43.5%)と続きました。
この結果からも分かるように、後任の医師が重視しているのは「残された人が困らないための客観的な情報共有」と「事前のコミュニケーション」です。周囲に負担をかけず、気持ちよく次のステップへ進むためにも、この「周囲の期待」を意識して引継ぎの準備を進めましょう。
退職時に受け取る・返却する書類
退職日に向けて、勤務先へ返却するものと受け取るものを事前に整理しておきましょう。特に受け取る書類は次の勤務先での手続きや確定申告にも関わるため、漏れのないよう確認が必要です。
返却するもの
施設によって異なりますが、一般的に以下のものを退職日までに返却します。
- 健康保険被保険者証
- 身分証(社員証・IDカード)
- 鍵類(医療機関の鍵・セキュリティカード・ロッカーの鍵など)
- 貸与された白衣・名札・名刺
- 通勤定期券・交通系ICカード・通信機器(PHSなど)
- 業務用書類・備品(パソコン・USB・書籍・事務用品など)
勤務先のメールアドレスで登録しているサービスがあれば、退職日までに個人アドレスへの変更または退会手続きも忘れずに行いましょう。
受け取るもの
以下の書類は、退職後の手続きや次の勤務先への提出に必要になります。受け取り忘れがないよう、退職前に確認しておきましょう。
- 源泉徴収票:次の勤務先での年末調整に必要です。フリーランスや開業医になる場合も確定申告で使用します。
- 雇用補償被保険者証(※加入している場合のみ):次の勤務先への提出が必要になります。大学病院のコマ給ドクターや、役員待遇の院長などは対象外の場合があります。
- 基礎年金番号通知書(または年金手帳):医師の場合は非常勤先での提示等もあるため基本的に自己保管ですが、念のため確認しておきましょう。
- 退職証明書:開業やフリーランスへの転身を考えている場合、医師国保・国民年金への加入手続きで必要になることがあります。
- 離職票(※加入している場合のみ・退職後10〜14日ほどで郵送):次の勤務先が決まっている場合は不要ですが、空白期間がある場合は失業給付の受給に必要です。必要な方は退職前に発行を依頼しておきましょう。源泉徴収票:次の勤務先での年末調整に必要です。フリーランスや開業医になる場合も確定申告で使用します。
退職・退局時に行う手続き
引継ぎと並行して、退職に必要な書類手続きも進めます。
退職届の提出
退職届の提出が必要かどうかは勤務先によって異なります。必要な場合は書式が定められていることも多いため、事務部門に合わせて確認しましょう。
健康保険・年金の切り替え
退職後はすみやかに健康保険と年金の切り替え手続きが必要です。退職後14日以内に国民健康保険への加入手続き、国民年金への切り替えを行うのが原則です。
ただし、医師が退職して空白期間ができる場合、通常の国民健康保険だけでなく「医師国民健康保険(医師国保)」に加入する選択肢もあります。医師国保は保険料が定額(一律)であることが多いため、高所得になりやすい医師にとっては、国民健康保険よりも保険料を大幅に抑えられるケースがほとんどです。
なお、退職後すぐに次の勤務先へ入職する場合は、新しい勤務先での手続きに従う形になります。手続きの詳細は市区町村の窓口や年金事務所、各都道府県の医師国保組合に確認しましょう。
退職後に行うこと
退職後に次の勤務先へすぐ入職する場合は、健康保険・年金の手続きは新しい勤務先で対応されます。一方、入職までに空白期間がある場合は、国民健康保険・国民年金への切り替えに加え、確定申告の準備も必要になります。年の途中で退職した場合、年末調整が行われないため、翌年に自分で確定申告を行うのが一般的です。詳細は税理士や税務署に確認することをおすすめします。空白期間中の収入確保には、スポット勤務の活用も選択肢の一つです。
医師の退職手続きをスムーズに進めよう
医師の退職手続きは、就業規則の確認・退職の申し出・転職活動・引継ぎ・書類手続きと、複数のステップが重なって進んでいきます。医局所属かどうかによって流れが異なる点にも注意が必要です。退職希望日から逆算して余裕のあるスケジュールを組み、一つひとつ確認しながら進めましょう。